眩むランプ―鈴光堂―
生放送声劇のために書きおろし。2014/2/9初演。
愛美の一人芝居がそこそこあります。
はりこのトラの穴にも置かせてもらってます。
配役
愛美(まなみ):偶然鈴光堂を見つけた女性。好奇心旺盛・感情豊か
春澄(はるすみ):鈴光堂店主。頭の構造が人とは違うらしい
朱音(あかね):鈴光堂店員。割と淡々としている
(店の前にて)
愛美「(通話)えっ今日無理って…私もう家でちゃったのに!…うん、仕事なら、仕方ないけどさぁ…次からはもっと早く連絡してよ…。
うん、次は絶対埋め合わせしてもらうからね!…うん…はぁい……うん、またね…。(通話終了)」
「はぁ…ここまで来てドタキャンかぁ…このまま帰るのも何かなぁー…。
あれ?お店…?全然気づかなかったなぁ。
いろいろ置いてあるけど、何屋さん…?
看板もないし…統一性もないし…すごく……怪しい。ぼったくられたりして…。
でもこれだけ古いなら、ずっとここでお店やってるんだよね。なら大丈夫かな…?
こういうのって気になっちゃうんだよねー。
好みの雑貨とかありそう。レトロっぽいし。あ、でも高そうだなぁ」
朱音「あの、」
愛美「うわっ、はい!」
朱音「中、ご覧になりますか?」
愛美「え?」
朱音「先程から何やら悩んでいるみたいだったので」
愛美「え、もしかして、ここのお店の…」
朱音「はい、店員です。ちょうど外出先から戻ってきたところでして」
愛美「…あの、もしかして、全部聞いて…?」
朱音「全然気づかなかったな 辺りから」
愛美「ほぼ全部だ!」
朱音「大丈夫ですよ、誰に言うわけでもありませんから」
愛美「あぁ、はい…(落ちこみ)」
朱音「どうされます?」
愛美「え、あ、んー(悩む)」
朱音「別に無理矢理買わせたりしませんよ?ふふ」
愛美「え、あぁさっきの聞いてたんですもんね、すみません…(恥ずかしそうに)」
朱音「いえいえ、そういうつもりではないんです。ただ、せっかくなのでこれも何かの縁かなぁ、と」
愛美「じゃあ、ちょっとだけ…」
朱音「はい、どうぞ。いらっしゃいませ」
愛美「お邪魔しまーす」
(店の中へ)
愛美「そういえば、看板とかないんですね?」
朱音「あー…昔はあったんですけどね…」
愛美「お店の名前はなんていうんですか?」
朱音「一応、鈴光堂という名前です」
愛美「一応…?」
朱音「あまり呼ばれないので、知ってる人は少ないんです。うち、お客様全然来ないので」
愛美「え…それでお店大丈夫なんですか…?」
朱音「長年やってますから」
愛美「お店、すごく古い…じゃなくて!貫禄があるっていうか…」
朱音「ただボロいだけですよ。店長が面倒がって改装してくれないので。(ため息)」
春澄「味があると言え」(登場しながら)
朱音「どこがですか。ごちゃごちゃしてるし、見づらいです」
春済「? わかりやすいように並べてあるだろう?」
朱音「そう思ってるの、春澄さんだけですよ。他の人を春澄さんと一緒にしないでください。頭の構造が違うんですから」
愛美「あの…」
朱音「あ、あの人がこの店の店長です。春澄さん、久し振りのお客様ですよ」
春澄「あぁ、いらっしゃい」
愛美「こ、んにちは…」
春澄「いくらでも好きなだけ見ていってくれて構わないから」
愛美「は、はい!ありがとうございます」
春澄「基本的に値段は書いてないから、気になったものがあったら朱音に聞いてくれ」
朱音「申し遅れました。私、店員の朱音です」
春澄「見て帰るだけでもいいよ。無理に買わせることはないからさ(軽くからかうような)」
愛美「?! え?!、え?!」
春澄「では、ごゆっくり」(はける)
愛美「ぇ…、なんで?朱音さん、言ってないですよね?!」
朱音「言ってないですよ。というか、ずっとあなたと一緒にいたじゃないですか」
愛美「ですよね…。どっかで聞かれてたのかな…」
朱音「さぁ…。あの人のことは考えても無駄ですよ」
愛美「うぅ…」
朱音「怒ったり不快になった訳ではないですし、気にしなくて大丈夫です。ああいう性格なんで」
愛美「はい…」
朱音「それより、店内ご案内します。どのようなものがお好みですか?」
愛美「あ、えーとですね…レトロ調の家具や雑貨が好きなので、その辺りのものがあれば見てみたいです」
朱音「わかりました。店内が春澄さんのせいでごちゃごちゃしてまとまってないので、順番に案内しますね」
愛美「お願いします」
愛美「それにしても、すごい量ですよね」
朱音「そうですね。掃除が大変です」
愛美「確かにこれは…」
朱音「まぁ、お客様がいらっしゃらない日も多いので、時間はあり余ってるんですけど」
愛美「私も、この道はよく通ってるのに、今日初めてこのお店に気がつきました」
朱音「わかりにくいですからね。そのように作ってあるので、そうなんですが」
愛美「わざとなんですか?」
朱音「はい。あ、ここら辺にあるのはレトロ調ですね」
愛美「わあ!すごく好みです!」
朱音「それは良かったです」
愛美「レトロ調のものって、なかなかお店で売ってなくて。あっても好みじゃなかったりして、気に入るものが見つけられなかったんですよ。
今日このお店見つけられて本当ラッキーだったなぁ」
朱音「ありがとうございます。うちは商品が売れることは珍しいので、いつでもいらしてください。好きなだけ鑑賞していただいて大丈夫ですよ」
愛美「すみません…(恥ずかしそう)」
朱音「ここにある商品たちも、毎日お客様が来なくて暇でしょうから。私も、掃除したのが無駄にならずに済みます」
愛美「あはは、本当にお客さん来ないんですね」
朱音「そうですよ。 あと、こっちにあるのもお客様のお好みじゃないですか?」
愛美「あ、私、愛美です。さっき名前教えていただいたのに自分の名前言ってませんでした」
朱音「愛美さんですね、ありがとうございます」
愛美「いえ…。そっちの小物もいいですね!」
朱音「あとはこっちにアクセサリー類が…」
愛美「わあああ!こっちも素敵な……あれ?」
朱音「どうかしましたか?」
愛美「あそこの棚にあるのって…」
朱音「あぁ、あっちの棚は、特別なんです」
愛美「特別?」
朱音「はい。あっちの棚だけは、春澄さんが管理しています。基本的には鑑賞用の商品で売り物ではないのですが、場合によっては春澄さんが値段を決めて売ってますね」
愛美「へぇ…」
朱音「何か気になるものでも?」
愛美「右端にあるランプが…とても、気になって…」
朱音「触ってみますか?」
愛美「え、いいんですか?観賞用なんじゃ…」
朱音「それくらいなら平気です。落としたりしなければ」
愛美「き、気をつけます…」
愛美「あ、結構重い…」
朱音「かなり前から置いてあるんですよ。もしかしたら大分古いかもしれません」
愛美「そういえば、ここって何屋さんになるんですか?商品のジャンルがバラバラですけど…」
朱音「今時の言葉だと、リサイクル店…でしょうか。ここにあるものはほとんどが持ち込まれたものなので」
愛美「へぇ…でもどの商品も綺麗ですよね、新品みたい。朱音さんの掃除のおかげですね」
朱音「ありがとうございます。そう言っていただけると、掃除し甲斐があります」
愛美「…あの、さっきここの棚は場合によっては売ってるって言ってましたよね?」
朱音「はい、そうですね。春澄さん次第で、ですけど」
愛美「んー……値段も、春澄さんに聞かなきゃわかんないですよね…」
朱音「そうです。それ、気に入りましたか?」
愛美「はい…。さっき見せてもらったものも素敵だったんですけど…これに一目惚れしてしまいまして」
朱音「そうですか…」
愛美「でも、値段がわからないとなんとも…。実は今月、あまり余裕ないんですよね」(恥ずかしそうに)
「来月まで置いといてもらうとか…あ、でもすごい高かったら無理だなぁ…。その前に売ってくれなかったら意味ないし…」(独り言ぽく)
朱音「呼んできましょうか?」
愛美「う、うーん……」
朱音「もし値段を聞いて、無理であれば買う必要ないですし」
愛美「そうですか…?でも、私なんとなく、春澄さんって苦手な感じがして…さっき少ししか話してないのに、失礼なんですけど…」
朱音「あぁ、大抵の人はそうですよ」
愛美「なんか、見透かされそうで怖いっていうか…」
朱音「まぁ、実際そうですね」
愛美「んんん…うまく喋れるかな…」
朱音「私も居ますから、大丈夫ですよ」
愛美「うぅぅ、よろしくお願いします…」(弱気)
朱音「はい。では、呼んできますので、少々お待ちください」(はける)
愛美「あぁぁあ…ちゃんと言えるかなぁ…。春澄さんって見た目はイイのに雰囲気がなぁ…。でも、朱音さん居てくれるって言ってたし、頑張ろ!
それにしてもこのランプ…一目惚れしたとはいえ、すごい高そうだよね。
何十万とかしたらどうしよう!こっちの特別な棚にある訳だし安くは…ないよね……そもそも売り物じゃないし!
でもどうしても欲しくなっちゃったんだよねー…そりゃ好みど真ん中だけど。なんか、一目惚れ以上の何かが…」(見入る)
朱音「お待たせしました」
愛美「……」
朱音「愛美さん?」
愛美「ぅあ!はい!」
朱音「どうかされました?」
愛美「あ、すみません、ぼーっとしてて」
春澄「ふーん、それを気に入ったのか」
愛美「あ、はい!とても惹かれてしまって…」
朱音「どうですか?」
春澄「まぁまぁかな。悪くはないと思うけど、特別良くもない。どっちに転ぶかは彼女次第だろうね。今は特に不安定だし」
朱音「そうですか。どうします?」
愛美「??」
春澄「いいんじゃない?面倒はごめんだけどね、結果への興味の方が大きい」
朱音「またそういうことを言って…」(呆れ)
春澄「そう言って朱音だって気になるんだろう?」(からかい)
朱音「はぁ(ため息) 否定はしません」
春澄「ずるい逃げ方だな」
朱音「春澄さんはもう少し本音を隠して建前を使ってください」
春澄「正直者と言ってくれ」
朱音「思ったこと何でも口にだす子供ってことですよね。(ぼそっと) 愛美さん(向き直り)」
愛美「はい!」
朱音「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。このランプ、愛美さんにお譲りするそうです」
愛美「え!本当ですか?!」(勢いよく)
春澄「嘘ついて僕に何の得があるのさ」(勢いに引き気味というか、眉をひそめる感じ)
愛美「あ、すみません…」
朱音「春澄さん…(呆れ) 愛美さん、すみません。気にしないでくださいね」
愛美「いえ…。あの、春澄さん…ありがとうございます」
春澄「ただし、条件がある」
愛美「、条件…?」
春澄「そう。その条件を守れないのなら渡すことはできない」
愛美「どんな、条件ですか…?」
春澄「別に難しいことじゃない。寝る時には必ずそのランプを消すこと」
愛美「え」
春澄「それだけだ」
愛美「それ、だけ…。寝る時に、ランプを消すことが、条件…」
春澄「守れないなら、売らないが」
愛美「守ります!大丈夫です!」
春澄「そう。じゃあそれは君に売ろう」
愛美「ありがとうございます!…あ、でも金額…おいくらですか…?」
春澄「値段かー…。30万?」
愛美「えっ?!」
春澄「……」
愛美「ぅ…あの、すみません…せっかくですが、その金額は持ち合わせてなく…」
春澄「というのは冗談で、」
愛美「えぇ?!」
朱音「正直者が聞いて呆れます」
春澄「僕だって冗談を言って場を和ませることくらいするさ」
朱音「今の場合、空気凍ってましたけど」
春澄「僕の冗談スキルが高すぎて常人には理解できなかったんだ」
朱音「そうですね。構造違いますからね。主に頭の」
春澄「ちなみに30万ていう、微妙にリアルな金額がポイントだ」
朱音「そうですか(流す) で、本当の金額はおいくらですか」
春澄「実は特に考えてない。朱音に任せる」
朱音「では…五千円で」
愛美「五千円?!って、安すぎじゃないですか?!だってこれ、」
朱音「その代わり、またいらしてください。今日お見せした他にも商品はたくさんありますから。きっと気に入っていただけるかと」
愛美「!!はい、もちろんまた来ます!ありがとうございます!!」
春澄「策士…」(ぼそっと)
朱音「商売上手と言ってください」(ぼそっと)
愛美「では、これで…」
朱音「はい、確かに。箱が適当なものしかないので、緩衝材は入れてますけど気をつけて持ち帰ってください」
愛美「わかりました。ありがとうございました」
朱音「こちらこそ。またのお越しをお待ちしております」
(愛美はける)
春澄「どうなるだろうね」
朱音「楽しそうですね」
春澄「朱音も楽しそうだけど」
朱音「それは珍しくお客様が来店されたのと、掃除をほめられたからですね」
春澄「ふぅん?」
朱音「あ、すっかり忘れてましたけど、頼まれてた物は無事に届けてきましたので。ちょうど帰ってきた時に店の前で会ったんですよ、愛美さんに」
春澄「あぁ、お疲れ。何か言ってた?」
朱音「いえ、特に何も」
春澄「それじゃあとりあえずあっちはいいか。…彼女がどうなるかが楽しみだね」
場転(愛美の部屋)
愛美「だたいまー。ふー、意外と重いから腕が痛くなっちゃったな。
さーて(ランプ取り出して)、どこに置こうかなぁ…んー…あっちでもいいけど、ランプだから机かベッドの近く?
机は…ちょっと合わない、かなぁ? うん、ベッドの方がいい感じ!
(寝る前)
ランプ、消して寝なきゃいけないんだよね。
つけて寝たら何かあるのかな?
…んー…気になる…。けど、条件だもんね!!
なんかわかんないけど、条件守らなかったら、春澄さんにバレる予感がするし…。
よし、それじゃあおやすみなさーい」
場転(店)
春澄「この間の彼女、ちゃんと条件守ってるみたいだね」(機嫌良く)
朱音「そうですね。まだ買ってから数日ですけど」
春澄「このまま何もないと思う?」
朱音「わかってて売ったんでしょう?賭にもなりません」
春澄「残念。あ、じゃあ後何日持つかで賭けよう」
朱音「嫌ですよ、どうせ春澄さんが勝つじゃないですか」
春澄「やってみなきゃわかりないだろ?」
朱音「わかります」
春澄「朱音はもっとチャレンジ精神を持つべきだね」
朱音「…何とでも」
場転(部屋でも、どこかの道路でもどこでもOK)
愛美「(通話)あ、裕也?久し振り。今着信あったの気付いたんだ、ごめん。
えっ明日?ううん、大丈夫だよ!うん…うん…仕事は平気?本当に?
じゃあ楽しみにしてるからね!この間の埋め合わせしてもらいますから!ふふ
ん、じゃあまた明日ね!」
「明日かー!この前だめになったから、裕也に会うの久々だ…!
何着て行こうかなぁ!あ、せっかくだから、あのお店で新しいアクセサリー買って着けて行こう。
朱音さんにも、改めてお礼言いたいし」
場転(店)
愛美「こんにちはー」
朱音「愛美さん、いらっしゃいませ」
愛美「朱音さん、こんにちは!この前はありがとうございました」
朱音「いえいえ、こちらこそ。あのランプ、どうですか?」
愛美「すごく気にいって、毎日使ってます!あ、もちろん寝る時は消してますけど」
朱音「それは良かったです。今日はどうされました?」
愛美「この間見せてもらったアクセサリーって、まだありますか?」
朱音「はい、売れてませんよ」
愛美「よかった!それを買いに来たんです」
朱音「ありがとうございます」
愛美「こっちの方が…でも、もうちょっと落ち着いた感じに…んー…どっちがいいかなぁ…」
朱音「随分お悩みですね」
愛美「えへへ、実はこれからデートなんです」
朱音「なるほど」
愛美「最近会えなかった上に、この間ドタキャンされたので、久々なんです」
朱音「楽しみなんですね」
愛美「すっごく!って、すみません、テンション高くなっちゃって…」
朱音「いえ。謝ることではないですよ」
愛美「そういえば、春澄さんは今日はいないんですか?」(話題そらす)
朱音「いますよ。大体は奥にいるんです。気が向いた時だけこちらへ。用があるなら呼んできますけど」
愛美「いえ!用はないです、ただ聞いただけですから!」(焦って)
朱音「そうですか?」
愛美「はい! 」(力強く)
春澄「そんなに避けられること、まだ何もしてないんだけど」(不思議そうに)
愛美「えっ?…!いつからそこに?!」
春澄「今さっき。僕の場所聞いた辺り?」
愛美「す、すみません…別に避けた訳ではなくて…(ばつが悪そう)」
春澄「それより、時間いいの?」
愛美「へ?」
春澄「待ち合わせ」
愛美「なんでそれ…て、ああ!時間!朱音さん、すみませんこれください!」
朱音「1500円です」
愛美「はい、これで。着けてきますのでこのままで。バタバタしてごめんなさい、ありがとうございました!」
朱音「お気をつけて」
愛美「はい!また来ます!」(急いではける)
春澄「慌ただしいな」
朱音「デートだそうですから」
春澄「へぇ、そういうものなのか」
朱音「そうなんじゃないですか」
春澄「雲行き怪しいけどね」
朱音「…では、そろそろでしょうか」
春澄「ふふ、どうかな」
場転(どこか待ち合わせ場所)
愛美「はぁ…はぁ…(走ってきた呼吸)
時間…間に会ったぁ…。(周り見渡しながら)裕也はまだ来てないのかな?
……。
遅刻、かな?ったく、夕飯奢らせようかな!
……。
連絡、来てないよね?んー、どうしたんだろ…何かあったのかなぁ…。
まさか約束忘れてはないよね…。昨日の今日だし…。
事故、とか……まさか……。
あ!電話!(音鳴らせるなら着信音)」
「(通話)もしもし、裕也?!今どこ?!
え、会社って……また?私もう着いちゃったのに…。
仕方ないって…!だからって謝りもしない訳?!
こっちは事故にあったんじゃないかとか、心配してたのに…!
そんなに忙しいなら約束なんてしないでよ!すごく楽しみにしてたのに…
はぁ?!なんでそんなこと言える訳?
あっそ、もう知らない。好きにすればっ!じゃあねっ!」(通話切る)
「はぁ…何やってんだろ……。
帰ろ…」
場転(家)
(帰宅と同時にランプを習慣でつける)
愛美「ただいま……はぁ……。
ちょっと言い過ぎちゃったかな…いや、でも裕也が悪いよ、あれは。
……んー…。頭ぐるぐるする…。
あ、ランプ……何か、癒されるんだよねぇー。
……。
…明日、ちゃんともう一回裕也と話そう…。
謝って、それで、仲直り…できる……かな……(寝息)」
(ランプはついたまま)
間(朝)
愛美「ん……あれ、私……?
えと、昨日…あ、裕也と喧嘩して帰ってきて、そのまま寝ちゃったんだ…。
はぁ……。あ!ランプ!つけっぱなしにしちゃった!
どうしよ…!え、どうなる、のかな?!
ってか時間!やばっ、出かける準備……あ、れ…目がチカチカ、する…?
ランプつけたままだったから、かな…。
はぁ(ため息) 昨日からツイてないなぁもう……。
て今はそんな場合じゃないんだった!用意用意!」
間(夜)
愛美「ただいまーあ。んー、やっぱこのチカチカするの治らないな…もう1日経っちゃうじゃん。
疲れからきてるのかなぁ。寝たら治るかな…。
あ、裕也に連絡しなきゃ…はぁ…。
メールも着信もナシ……まぁ、忙しいって言ってたもんね……。
……。
一人でこうしてたってしょうがないしっ!こっちから電話してみよう、ねっ!
……。
…せっかく気合い入れて電話したのに、でないし…。
もういいや、メールしとこ。
えーと…なんて書こう…落ち着いたら連絡ください、とかでいいかな。いいよね?
あーなにもう、すごいチカチカして見づらいよ〜…。
今日は早めに寝た方がいいかなぁ…」
間(朝)
愛美「ふぁ(あくび)んー(伸び) いたっ え、何?!目開かない、の…?
ごみとか入ってるのかな、そんな感じじゃないんだけど…。
鏡どこやったっけ…えーと…あれ?…あ、あった。
……?別に何も…て痛い!何これ…?!なんで開かない……あ、もしかして昨日のあのチカチカが酷くなってる、とか…?
眩しくて開けてられないのかな、これ…。なんなの…どうすれば……これじゃあ何もできないよ…。
放っておいて悪化してるんだから、病院行った方がいい…んだよ、ね?聞いたことない症状だけど…。
と、とりあえず着替え…わっ!何かぶつかっちゃっ…あ、ランプ…。
割れてないよね…?うん、大丈夫そうだ…はぁ、よかった。
あ、そういえばおとといの夜つけっぱなしで寝ちゃったんだよね…昨日の朝はそのせいでチカチカしてるんだと思っ、て…。
……もしかして…、これのせい…だったり…して…。
ないよね!明かりつけたくらいでここまでならないよね、普通!まさか、ね…。
でも、条件って言ってたってことは…やっぱり何か関係があったりするのかな…。
あーもう!考えてたってしょうがないっ!
条件破っちゃったことどっちにしても言わなきゃいけないし、もしかしたら返さなきゃいけなくなるかもだけど、私が悪いんだし!
何かわかるかもしれないんだから、聞くだけ聞きに行こうっ!んで、ダメなら病院!!うし!まずは……この状態で用意するの…大変だなぁ…はぁ」
場転(店)
愛美「こん、にちはー…」(見えないので恐る恐る、窺うように)
朱音「いらっしゃいませ。…愛美さん、どうされたんです?目瞑ってたら、危ないですよ?」
愛美「あ、朱音さん?」
朱音「はい、そうです」
愛美「あ、朱音さん〜〜(半泣き)」
朱音「開かないんですか?」
愛美「そう、なんです…(半泣き)」
朱音「持病ですか?」
愛美「違います〜。昨日から痛くなって…、で、今日起きたらほとんど開けられなくなってて…うぅっ」
春澄「だから条件を守れと言ったのに」(呆れ)
朱音「春澄さん」
愛美「…あの、これってやっぱり、ランプの…」
春澄「そうだよ」
愛美「…ごめんなさい…」
春澄「ま、結果は予想通りだった訳だけど」
愛美「予想通り…?」
春澄「あぁ、誤解のないように言っておくけど、別にこうなるように仕組んだ訳ではないから。条件を守る・守らないは君次第だったんだし、確立は半々だった」
愛美「…え、と…どういう…」
春澄「あのランプにはちょっとした力があってね。君との相性は特に悪くはなかった。だから譲ったんだ。むしろ君次第では、君を守護してくれる存在にも成り得た」
愛美「守護…?」
春澄「簡単に言うとお守りだよ。といっても、そこらへんで売ってる微妙なご利益しかない安物とは違うけど。こういうものは所持者との相性や精神状態に左右される」
愛美「よく、わからないです…」
春澄「つまり、君はあのランプを条件さえ守って使っていれば問題はなく、守護を得ていられた。しかし条件を破り、おまけにその時の精神は不安定。
それにより本来プラスに働いていた力が暴走し、マイナスになって君に影響している」
愛美「…私があの時、ランプをつけたまま寝てしまったから…」
春澄「で、君はこれからどうする?」
愛美「え?どうする、って…」
春澄「見たところ、目を開けていられないようだけど…眩むのか痛みがあるのか。言っておくが、病院にかかったって治りはしないよ」
愛美「そう、ですよね。…あの、治すには…どうすればいいんですか?私が条件を破ったのだし、私が悪いのはわかっています。それでも、治すことは…できますか?」
春澄「君次第では」
愛美「(ほっとして)よかった…」
春澄「まだ初期段階だし、元の性質もあるから、今からなら元に戻れる」
愛美「今からなら?」
春澄「こういうものは放っておくと悪化して取り返しがつかなくなるのさ」
愛美「え、」
春澄「すぐここに来れてよかったね」
愛美「…はい…(青ざめてる)」
春澄「さて、戻すためにやらなければいけないことだが。
今回のこれは、ランプが君に影響を起こしやすい状態――つまり灯りがついている間に、君が眠っている時の深い部分の感情によって起こされた。
さっきもいったように、これは持ち主の精神状態を反映させる。だからまずは、君自身が悪い感情に引きずられないようにすること」
愛美「感情を…」
春澄「といっても、大抵の人間は感情を都合よくコントロールなんてできないからね。ちょっとした手助けをしてやろう」
愛美「え?」
春澄「37番辺りかな」
朱音「はい。こちらです」
春澄「これは香。あぁ、ランプと違って別に怪しいものではないよ。そっちにある商品と一緒。まぁ他の店で売っていないという点においては、特別だけど。
気分を落ち着かせるのに適してる。これを寝る前に焚けばいい」
愛美「このお香を寝る前に…わかりました」
春澄「そして寝る時、今度はあえてランプはつけたままにしておく」
愛美「え、つけたまま…ですか?」
春澄「そう。あれは灯りがついてなければほとんどただの置物同然だ。負に働いている力を戻すには、影響力がある状態で正の力を加えなければならない」
愛美「…は、い……」
春澄「理解できなくてもいいさ。君にはあまり関係がないことだからね。とりあえず、寝る時に香を焚いてランプをつけて寝る。それだけだ」
愛美「は、はい。わかりました」
春澄「それくらいの軽さなら、2・3日で良くなるだろう」
愛美「ありがとう、ございます…」
朱音「私、家までお送りします」
愛美「え、いや、大丈夫です…」
朱音「でもほとんど何も見えないんですよね?」
愛美「ぁ、タクシーで帰りますから…」
朱音「そうですか」
愛美「はい…。では、今日はこれで失礼させていただきます…」
春澄「あ、そのランプだけど」
愛美「!は、はい」
春澄「治ってからどうするかは、君に任せるよ」
愛美「、どういう…?」
春澄「返品を強要はしないってことさ。条件を破ってしまったが、そのまま君が持っていてもいい。…まだ、持っていたいなら、ね」
愛美「……はい」
(愛美はける)
春澄「うーん……」
朱音「どうしたんですか」
春澄「予想の範囲内過ぎて面白みがなかった」
朱音「面倒じゃなくてよかったじゃないですか」
春澄「多少面倒でも、おもしろさが上回れば僕は満足だよ」
朱音「今回、結果は大体見えていたじゃないですか」
春澄「もっと面白くなるかと思ったんだけどね…残念」
朱音「やっぱりこっちに転ぶってわかってて渡したんじゃないですか、あのランプ。何が確立は半々だった、ですか」
春澄「どちらに傾くかの二択なんだから、確立なんて半分ずつだろう?嘘は言っていない。
後は可能性の話さ、彼女次第のね」
朱音「はぁ(ため息) そんな回りくどいことするから、きっと春澄さんの期待する結果にはならなかったんでしょうね」
春澄「どういうこと?」
朱音「あのランプ、きちんと使えば愛美さんを守ってくれるんですよね」
春澄「まぁあの程度の相性なら、気休め程度だけどね」
朱音「だから、酷くなる前にここに来られたんじゃないですかね。そして無事に治す方法を見つけられたんです」
春澄「アレの守護で?今アレはマイナスにしか働いてないのに?」
朱音「んー、神様の粋な計らい、とかですかね」(冗談ぽく)
春澄「神?ふんっそんなもの居てたまるか」
朱音「何事も期待通り・思い通りにはいかないってことですよ」
春澄「朱音だって期待してただろ?否定しなかったじゃないか」
朱音「肯定もしてませんけどね」
春澄「ずるいなー。朱音の方が僕よりよっぽど性質(たち)悪いと思うよ」
朱音「春澄さん冗談なんて言えたんですねぇ」
場転(愛美の家)
愛美「このランプが、このチカチカの原因…。
私次第で、良くも悪くもなる、か…。つけたまま寝ちゃった日って、裕也と喧嘩して相当イライラしてたもんなぁ…。
あ、裕也といえば、携帯に連絡入ってるかな…んー…でも今、目開けるの辛いし、もしショック受けること書かれてて余計に悪化したら困るから、明日でいっかなぁ。
そだ、お香!せっかくだし焚いてみようかな!こういうのあんまり詳しくないんだけど…これでいいのかな…?
…へー…結構好きな香りだー…。新しくお香にハマりそうかも。
確かに落ち着くなー……。
……。
ぅあ!あれ、ちょっと寝てた?!今何時…って、あ…目開けれる!んーちょっとまだ違和感あるけど…大分良くなったんじゃない?!
良かったぁ〜。こんなに早く治るとは思わなかったし…安心した…。
このままお香焚いて寝てればいいんだよね。
そういえば、このランプ…返すかどうか任せるって言われたけど…。
…確かに、さっきまでみたいなことになるのは怖いけど…あれは私のせいでもあるわけ、だもんね。そもそも条件守れなかったのも私で…。
私が、ちゃんと使い方を間違えなければ…守ってくれる…ん、だよね?
仮にそんな力がなくっても!このランプに私が一目惚れしたのは事実だし!せっかく譲ってもらったんだし!!
、あ、電話……裕也だ……平常心、平常心…落ち着いて…うしっ!
(通話)もしもし……あ、うん。家だから大丈夫だよ。うん…。あ、ごめん。しばらく携帯見れてなくて…うん。
え?いや、私こそ…ごめん…。仕事忙しいのに、私のために時間作ってくれようとしたのに……ううん。
…まぁ、確かにそうなんだけど……でも、あんな言い方しなくてもよかったなって思って。
うん、ありがと…。えっ?いや、平気だから。本当…無理しなくて…。あ、そうなの?…うん…。
わかった。もしダメなら、ダメでいいから連絡してね?心配するから…うん。
じゃあ、日曜日にね。おやすみ(切る)
はぁー(長い溜息) 良かった…。後はこのまま目が治れば…」
場転(店)
愛美「こんにちはー」
朱音「いらっしゃいませ」
愛美「数日ぶりです」
朱音「目は治りましたか?」
愛美「はい、もうすっかり」
朱音「そうですか、良かったです」
愛美「ありがとうございます。それで、ランプの件なんですけど…」
朱音「あぁ、どうされますか?」
愛美「やっぱり私が気に入って譲っていただいたものですから、このまま持っていたいんですけど…いいですか?」
朱音「愛美さんが購入したものですから、それはもちろん構いませんが…手放したくはならないんですか?」
愛美「え?」
朱音「あんな目にあって、怖いとか気持ち悪いとか、あるのではないのかと。ああいったことが起こった人は大抵そう言って返品されるので」
愛美「あはは…確かにちょっと怖かったですけど…でもそれは、私がうっかり灯りをつけたままにしてしまったので、私の責任だと思うんです。
私が条件を守っていれば、何もなかった訳ですから…。それに、なんだか…手放したくないんですよ…。
春澄さんから話を聞いたからか、なんとなく、ランプが私を見守ってくれてる気がして…。変ですよね、あんな思いしたのに。(苦笑)」
朱音「いえ、そんなことはないです。きっと、愛美さんとあのランプは縁があったんですね」
愛美「縁?」
朱音「そうです。このお店を見つけたのも、きっとあのランプと縁があったからですよ。だから、愛美さんが大切に使っていてください」
愛美「…はい…。ありがとうございます」
朱音「それより、時間はよろしいのですか?」
愛美「え?」
朱音「待ち合わせをされているのではないかと」
愛美「!あれ、私、今日は何も言ってないですよね…?朱音さんまで春澄さんみたいなことを…!」
朱音「一緒にしないでください。 違いますよ、愛美さん、この間買ったアクセサリーをつけているじゃないですか。前にデートだと言ってましたよね?」
愛美「あ、なんだ、びっくりした…。そうなんです、これから待ち合わせで」
朱音「楽しんできてください」
愛美「ありがとうございます。あの、春澄さんは…」
朱音「あぁ、今ちょうど不貞寝してます」
愛美「ふ、不貞寝…?」
朱音「そうです。ランプの件は伝えておくので気にしないでください」
愛美「わ、かりました…?あと、ありがとうございましたとお伝えください」
朱音「はい」
愛美「また伺いますね。今日はすみませんがこれで」
朱音「いえ。ありがとうございました、お気をつけて」
愛美「はい。朱音さんも、ありがとうございました」
(愛美はける、入れ違いに春澄がでてくる)
春澄「誰が不貞寝だって?」(不機嫌)
朱音「あぁ、起きたので不貞寝ではなく不貞起きですか」
春澄「……別に、不貞腐れてない」
朱音「はいはい。愛美さん、ランプ返品しないそうですよ」
春澄「聞いてた」
朱音「なら出てくればいいのに…」(ぼそりと)
春澄「物好きな奴だね」
朱音「愛美さんですか?」
春澄「他に誰が…あぁ、確かにお前も物好きではあるけど」
朱音「一番は春澄さんじゃないですかね」
春澄「今はもう安定してるみたいだし、大丈夫だろう。あれだけランプを気に入ってるのなら、同じ過ちは犯さないだろうし」
朱音「そうですね」
春澄「…またしばらく暇になるかな」
朱音「めったにお客様来ないですからね」
春澄「つまらないな」
朱音「……」
春澄「……」
朱音「何企んでるんですか」
春澄「企んでるなんで人聞き悪いな」
朱音「……」
春澄「朱音、少し使いにでてこないか」
朱音「…はぁ…またですか。またあそこ行くんですか」
春澄「いいだろう。どうせ客なんて来ないんだから」
場転(待ち合わせ場所)
愛美「あ、裕也!久しぶり。…ちょっとやせた?…お疲れ様。本当に大丈夫?…だって心配なんだよ。
…ううん、嬉しいけど(照れてる感じ)
最近?んー。あ、すごいことあった!多分、信じてくれないような…え、本当ー?
じゃあ話すけど。笑わないで聞いてよ?
あのね、前に裕也がドタキャンした日があったでしょ?私が待ち合わせに向かってるのにって言った日。
そうそう、その日の帰りにね、いつも通る道にあった今まで気付かなかったお店を見つけてね、入ってみたんだけど――」(FO)
終
シリーズ化しそうな気配だけどどうだか。
2014/2/11